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謎の植物誌

著者:植物プランナー 坂嵜 信之

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1.インドハマユウの謎─ことの始まり

「インドハマユウ」と呼ばれている栽培品
「インドハマユウ」と呼ばれている栽培品

今から50年ほど前になるが、第二次大戦に負けた後、学制の改革があり、新制大学となった。そこで大阪市でも新制大学、その理工学部附属植物園ができた。それが1950年のことである。私は翌年、其処に職を得た。既にいくらかの植栽が始まっていたと記憶している。

そこで「これがインドハマユウである」と教わったのが初めてだった。白の花を咲かせる株とピンクの花を咲かせる株があった。ナカナカ強勢でよく株分れする。芝生の中に大株になって咲くのは夏の花として見応えがある。いわばチョットした目玉商品といったところである。入口を入ったすぐの目につく所、芝生の中に植えたのもそういうわけだったのだろう。

私は、教わったようにそれを長い間インドハマユウと思っていた。観察していると、冬には傷むけれども枯れ込まず、翌年にまた咲く。ところが、一向に種子をつけない。

秋に綺麗な花を一斉に咲かせるヒガンバナが3倍体で種子をつけないことを知り、インドハマユウも同じように3倍体なのかもしれないと考えてみた。

このことは気がかりだったので、その後もハマユウの仲間には注意を払ってきた。近頃は色々な園芸書や園芸事典でインドハマユウを取り上げている。ところが、どの本を見ても微妙に違い、何故か奥歯にモノが挟まったような説明なのである。「これは変だ。何かがある。」と思ったのが「インドハマユウの謎」にのめり込む始まりだった。

2.インドハマユウの謎─「100年後」の謎解き

ウォリック『アジア稀産植物誌』 1829-1832より
ボタニカル・レジスター(第1297図)1829より
外国文献に載るインドハマユウの図
左:ウォリック『アジア稀産植物誌』 1829-1832より
右:ボタニカル・レジスター(第1297図)1829より

「インドハマユウという和名の植物はどれか?」を調べてみると、その植物は幕末の小石川藥園時代から明治の初め頃、遅くとも1877年(明治 10)頃には既に「洋種文珠蘭」と呼んでいたもののようであった。小石川植物園に保存されている「明治12年小石川植物園花候」に「 洋種文珠蘭6月9日 花サク」とある。

植物分類学者が独り立ちするのには更に20年程の時間が必要だった。1900年に小石川植物園で栽培していたものを標本にして Crinum latifolium と同定された。同時にインドハマユウの名を書き込んだのが、日本でのインドハマユウの始まりである。かつて、ツュンベルグが誤って日本のハマユウ(ハマオモト)を Crinum latifolium としたこともあるのと同じ学名である。

その後約100年間、何の疑いもなくこの名前が受け継がれてきた。かつては疑いを持っても最高権威者の同定に異を唱えることは許されなかったのかもしれない。

いっぽう、園芸関係の人達は観賞価値の高いその植物を何のためらいもなくインドハマユウとした。ところが、外国の資料とつき合わせると「どうも変だ」と気づく人も出てくる。でも、色々な園芸書や園芸事典でインドハマユウを説明するのに都合の良い所だけを取捨選択して何とか繕い、辻褄合わせをし、誤った解説をしてきたのである。極端にいえば「見たことのない植物を空想で解説」したのである。迷惑なのは読者で、理解に苦しんだのは当然のことである。

ところが、最近になって同定の誤りが判明した。さいわいにも、1900年に作られた標本が保存されていたからである。再同定の結果、それは Crinum bulbispermum アフリカハマユウであった。実は、初めの同定が誤りなのであった。

こうして「インドハマユウの謎」はあっけなく解決した。無言の標本は100年後にも正しさを物語ってくれたのである。また「進歩は疑うところから始まる」こと、絶えず検証が必要なことも教えてくれたのであった。


〔植物名入門〕各著者(50音順)プロフィールとこれまでのエッセイ

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プロフィール伝統園芸植物「オモト」の銘を考える

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乙益 正隆(ナチュラリスト・植物方言研究家)
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北山 武征(財団法人公園緑地管理財団副理事長)
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許田 倉園(元:玉川大学教授)
プロフィール植物名に現れた台湾の固有名詞

坂嵜 信之(植物プランナー)
プロフィール謎の植物誌

佐竹 元吉(お茶の水女子大学 生活環境研究センター)
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