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第二十一話 ヨーロッパの植物園

二百年を超える歴史を誇るキュー植物園

植物園といえば、英国の王立キュー植物園がまず挙げられる。

この植物園は、ロンドンの西、ヒースロー空港からあまり遠くないリッチモンドのテムズ川沿いにある。クリスタル・パレスの名にふさわしい壮麗な大温室やパームハウスをもち、世界の植物分類学をリードする歴史と伝統のある、名実ともに世界一の植物園である。

正式な名称は、ロイヤル・ボタニック・ガーデンズ・キュー Royal Botanic Gardens, Kewで、ふつう「キュー・ガーデンズ」の名で市民に親しまれている。

この王立(国立)植物園は、120万平方メートルの敷地面積に約25,000の植物が植え込まれ、76棟の温室、500万点余りの標本のある標本館(かつては1,000万点あったが、最近、陰花植物の標本は別の管理に移された)、世界一の規模の植物学図書館、それに解剖学や細胞学などを研究するジョドレル実験所が併設されて、大規模な植物研究機関を構成している。さらに最近、植物園内ではないが、付属の種子貯蔵庫も建設され、有用植物学の研究や遺伝子収集保存の活動も始めている。

キュー植物園の歴史は1759年にさかのぼる。敷地面積35,000平方メートルの植物園としてジョージ三世の母のオーガスタ妃によって開設され、1841年に王立となり、1897年に現在の広さになった。

有名なW・JおよびJ・D・フッカー(Hooker)父子を園長として、東西両半球にまたがる当時の英国植民地を中心に大規模な植物探索を行い、多くの植物誌をつくった。その中には、『英領インド亜大陸植物誌』『オーストラリア植物誌』『熱帯西アフリカ植物誌』『ケープ植物誌」など、現在でもよく使われている重要な植物誌がたくさんある。

また、『キュー索引 Index Kewensis』全16巻は、リンネの『植物の種 Species Plantarum』第一版(1753)以来、世界中で出版された顕花植物の学名を、その出典とともにもれなく収録した、植物分類学には不可欠の出版物である。

このほか、1837年に創刊されたフッカーの『植物図説 Icones Plantarum』は、世界中の珍しい植物を図説して、現在39巻になるし、全世界の重要な植物研究論文が載っている『キュー研究報告 Kew Bulletin』は、世界のすべての植物研究所が備えている専門誌のひとつである。1817年以来、世界の園芸植物を原色図入りで紹介している『カーティスの植物学雑誌 Curtis' Botanical Magazine』は、現在186巻に達しているが、英国王立園芸協会から引き継いでキュー植物園で出している園芸植物の図説の集大成である。

ティー・タイムに情報交流

現在、キュー植物園腊葉館には約50人の研究者がおり、これに毎日少なくとも数人の学者が世界各地から立ち寄っている。午前10時と午後3時ごろのティー・タイムには、これらの研究者が一堂に会して、植物学の情報交流や親善の場ができる。私が、R・E・ホルタム(Holttum)博士(前シンガポール植物園長)、植物の系統分類学で名高いJ・ハッチンソン(Hutchinson)博士、イネ科の世界的権威C・E・ハッバード(Hubbard)博士などの名士に、始めてお近づきになったのも、このお茶の場であった。

英国の第二の総合植物園は、スコットランドのエディンバラ王立植物園(Royal Botanic Garden, Edinburgh)(農業省管轄)で、栽培している植物は1万5千余種、それに150万点の標本がある。ここは、中国大陸やヒマラヤの植物に力を入れて収集、研究を進めていて、シャクナゲとツツジ類、サクラソウ属、シャクヤクなどのコレクションはとくに立派である。

系統分類学に伝統のあるベルリン植物園

ヨーロッパで、キュー植物園と双璧をなす巨大な研究植物園にドイツのベルリン・ダー レム植物園と植物博物館(Botanischer Garten und Botanisches Museum Berlin-Dahlem)がある。

1646年に開設されたシューンベルク植物園を母体とし、現在のベルリン近郊のダーレムドルフに移転し拡充されたのが1895年、かの有名なH・G・アドルフ・エングラー(Engler)教授が園長のときであった。面積42万平方メートルの園内には、丹念に正確な名のつけられた15,000種の樹木を含めて2万種ほどの植物が植えられている。これらは、分類学、地理学、生態学、利用、遺伝学など、さまざまの視点で配植され、最高の技術を駆使して建てられた43棟の温室内の豊富で健全な植物と相まって、植物園の栽培技術、展示面では、他の追随を許さない。

研究・増殖温室のほかに、ドイツらしいどっしりした形の展示温室が、フランス式庭園の正面に位置するが、この温室の半地下の一階には水族館式の水生植物園があり、他に例を見ない。

歴代園長は、C・L・ウィルデノウ(Wildenow)、J・H・リンク(Link)、エングラー、H・J・アイヒラー(Eichler)、F・L・E・ディールス(Diels)、J・マットフェルト(Mattfeld)など、世界的に有名な植物分類や地理学の権威である。英国のキュー植物園が世界の植物誌を中心に研究したのに対し、ウィルデノウの『世界植物総覧』の著作に始まり、植物の系統分類やモノグラフ(種属誌)の研究に重点をおき、抜群の学術水準を維持してきた。

植物教科書には必ず出ているエングラーの分類系は、大著『植物の科の自然分類 Die Natürlichen Pflanzenfamilien』で発表されたもの。分類学のバイブル『植物界Das Pflnzenreich』は、全世界の已知の植物を科別に分類記述する大著で、エングラーの時代に始まり、第2次大戦前まで引き継がれてきたが、戦争で標本館が被爆してしまい、ついに、未完成のままその出版続行が不可能になってしまった。キュー植物園と並ぶこの標本館の焼失は、大きな傷手で、研究植物園としては世界第二位の地位を米国のニューヨーク植物園に譲ったかたちになった。

現在のベルリン植物園は、園芸学、熱帯東アフリカや南太平洋地域の植物系統分類学な どの研究を続けている。また、ベルリン自由大学と提携して、大学院生の教育と人材育成を行っており、この点ではニューヨーク植物園・市立大学共同体とよく似ている。

ドイツの代表的な植物園のもう一つが、バイエルのミュンヘン植物園(Botanischer Garten München)である。市の西北に位置する壮麗なニュンフェンブルグ城公園のフランス式庭園に隣接し、ややこじんまりした園内にアフリカや南米の南部(チリなど)の珍しい植物などを数多く集めて、見て楽しい。このなかに、バイエル州立植物研究所があり、所蔵する植物標本は約230万点、中にブラジルのマルティウスのコレクションがあり、他に南米関連の標本が多く、筆者もかつてここに一年滞在して、新熱帯植物誌の一部の執筆をした。

この研究所のかつての所長は、有名な植物形態学者のK・ゲーベル(Göbel)教授であった。北ドイツのハンブルグにも近年植物園が増強され、植物の系統分類学の研究が活発になり、世界の植物の科属レベルでの集大成の本を編纂している。

大航海時代以来の多様なストック

フランスは、大航海時代に最も多くの世界一周植物探検航海を行い、多くの植物を活発に研究していながら、大型の植物園をもっていない。

ルイ十四世時代にコーヒーノキを増殖したことで知られる、パリのオステルリッツにあるパリ植物園(Jardin des Plantes)も、1635年王室の薬草園として発足したが、現在は国立自然史科学博物館の付属植物園である。規模は小さく、植えてある植物もせいぜい3,000種といわれるが、プラタナスとマロニエの見事な並木道や、それらを両側にした美しい園芸植物園、立派なロックガーデンがあって印象深い。

しかし、自然史科学博物館の植物研究部には1,000万点以上の植物標本があり、熱帯アフリカ、および東アジアの植物情報が蓄積されている。ル・コント(Le Comte),教授の『インドシナ植物誌』(1907~51)が知られ、A・フランシェ(Franchet)とL・サバティエ(Savatier)の共著『日本植物誌』(1879)もここで書かれた。博物学者のG・ビュフォン(Buffon)や用不用説のJ・B・ラマルク(Lamarck)もここで研究している。植物園の東門にラマルクの像がある。

ベルギーには、ブリュッセル北方のメイスに、ベルギー国立植物園(Nationale Plantentuin van België)がある。1826年に園芸協会の見本園として発足、1958年から1974年にかけてブリュッセルから移転してきた。約170万点の標本がある標本館では、コンゴを中心とする赤道アフリカの植物研究が盛んである。建坪が1万平方メートルの大温室は、日本の沖縄海洋博記念公園の熱帯ドリームセンターが完成するまでは、世界一であった。

ヨーロッパの植物園の特徴の一つは、歴史の長さとアカデミズムにあり、官立の植物研究機関であることにある。そして、19世紀以来、世界の資源植物を探索し、植物導入と育種改良を助け、自国の植物産業立国や植民地の開発に大きな貢献をしてきた。

国際性の高い西欧の植物園

もうひとつ重要なことは、ヨーロッパの植物園は国際性を備えていることである。多くの外国人研究者を客員として迎え、植民地その他の発展途上国から留学生を積極的に受け入れて、人材育成を行っている。また、自らのスタッフも海外で研究させ、多くの成果をもって帰国させている。閉鎖的で自己主張の強い日本の植物園や植物研究所とは正反対の行き方である。

北欧の植物園は、その大多数が大学付属植物園である点に特徴がある。コペンハーゲン大学植物園、オスロ大学植物園、ヘルシンキ大学植物園、ルンド大学植物園、ウプサラ大学植物園などがその例である。

コペンハーゲン大学植物園の主目的は、大学での研究と教育のための材料を栽培し、保存することにある。北極圏の植物を栽培するための、本格的な冷室も備えている。敷地は狭いが要領よく設計されていて、市民の憩いの場となる庭園と、学術的に高度の水準を保った分類花壇のほか、薬用、繊維用などの応用植物園がある。温室には、タイのラン科、ショウガ科植物が多く、『タイ国植物誌』(1970~)編集の中心であることをうなずかせる。

ウプサラ大学植物園は、C・フォン・リンネ(Linné)が1741年に園長になったところで、その弟子のC・P・トゥンベリー(Thunberg)の標本もここにある。そのなかに、彼が長崎から江戸への途上で採集した日本の植物の原標本があり、これを研究するために日本の植物学者がよく訪れる。

スイスで、最も充実した植物園はチューリッヒの大学附属植物園(Zürichs Botanischer Garten)で、大学の植物研究所の一部をなすものである。市内のツォリンケル通りにあり、市電やバスの便が良い。

面積は、5万3千平方メートルと特に大きいとは云えないが、各種の花壇、ロックガーデン、アーボリータム、温室などが無駄なく配置され、保有植物の種類が多いことのみでなく、世界の注目すべき種から稀有種に至るまで実によく集められているので感心した。

たとえば、北米から黄色い仏炎苞のミズバショウ属、エンレイソウ属各種、カナダツツジほか、アジアからは、タイワンイチヨウラン、シナマンサクなども見られ、温室内の水生植物園にヒルムシロシバがあったのには驚いた。これは台湾から熱帯アジアに生える、卵形の葉を持つ珍しいイネ科の水草である。地中海地方、アフリカはもとより、オーストラリアや南米の植物も豊富に見られた。

この植物園の新しい温室は、半球形で、数棟あり、その頂点と周辺脚部にモーターを着けて、温度と湿度を調整している。ほかに見られない新型のものである。

また、ジュネーブには市立植物園(Conservatoire et Jardin Botanique de la Ville de Genève) があり、ここでは裸子植物の収集が目立つ。温室や園芸植物圃場もなかなか良いが、なるほど、栽培植物起源探究の創始者であり、『植物学名の命名規約』第一版の起草も行ない、息子のC・ド・カンドール(De Candolle)と共に世界の種子植物のモノグラフ集を編集したA・ド・カンドールは、このジュネーブ植物園のかつての園長であった。

ついでながら、アルプスの国のスイスには立派な高山植物園がある。有名な観光地のインターラーケンとグリンデルヴァルトの間にあるアルペンガルテン・シーニゲプラッテ(Alpengarten Synigeplatte)と云う高山植物園で、天然のアルプス山地の一部の8,323平方メートルの山頂部利用の私立の植物園である。

シーニゲプラッテ登山鉄道の終点に入口があり、徒歩で園に入る。歩道に沿って、岩石地、砂礫地、メドウなどの多くの高山植物が植えられ、6月から8月末頃まで花が絶えない。早春のオキナグサ類、クリスマスローズ類、盛夏のチョウノスケソウ、ケシ属、サクラソウ科のアンドロサケ、有名なエーデルワイス、ダイコンソウ類、茎の短い植生状のリンドウやアザミ、アルペンローズというツツジの一種、マルタゴンユリ、トリカブト類などがここ一ヶ所で見られる。

園芸植物園でも世界をリード

ヨーロッパには、園芸植物を主とする植物園も多く、世界の他の地域をリードしている。

ロンドン郊外にあるウィズレー園芸植物園はその代表であろう。王立で、120万平方メートルの敷地には、花卉、野菜、花木、果樹などの園芸品種が栽培・研究されている。同じくロンドン郊外には、シャクナゲ、モクレン、ツバキなどが多く揃󠄀ったウィンザー植物園もある。

オランダのキューケンホーフ球根植物園は、チューリップをはじめとする球根類の見本園的植物園として知られる。チューリップの原産地は中央アジアのコーカサス地方である。この園芸的価値を認識したトルコ、オーストリア、オランダの三国がチューリップの園芸植物的開発を競ったが、遂にはオランダがその主導を把り、キューケンホーフがそれに貢献して、現在も年々優秀な品種が育種され公開されている。

園内は、広い落葉樹林である。新緑の林床には様々なチューリップ花壇や、ほかのバルブ植物の花壇が展開して、その彩りの見事さは格別である。広い温室内は、一面のチューリップで、新作を含めた実に数多の品種が一堂に集められる。是非とも一見に値する。

フランスのバガテル園は、シャトー・パビリオンやオランジェリーといった前世紀の建物を残し、多くのバラや草花の花壇のある園芸植物園である。

ドイツのフランクフルトのパルメンガルテンは、大形の近代的温室を中心に栽培植物も多く揃󠄀っている。ここでは、庭園というテーマでの植物研究も行える。

ソ連を代表するコマロフ植物研究所附属植物園

ロシアは、帝政時代から地味ながら植物研究に極めて熱心な国で、現在、ロシア共和国だけでも国内には60以上の植物園や研究所がある。最も有名なのが、ザンクト・ペテルスブルグ(旧レニングラード)にあるロシア共和国科学院のコマロフ植物研究所とその付属植物園である。

11万平方メートルの敷地に6,700種あまりの植物が植えられているが、北国だから温室に力を入れている。数棟の細長い温室に、熱帯多雨林、サバンナ、温帯、砂漠などの植物生態地理区系に分けた部屋があり、代表的な植物が植えてある。

園内の巨大な赤レンガ造りの建物が『ソビエット連邦植物誌』(1934~64)などの著作で有名なV・L・コマロフ(Komarov)の名を冠した研究所で、所蔵標本は600万点とも1,000万点ともいわれる。牧野富太郎博士と関係の深いC・J・マキシモビッチ(Maximowicz)は、ここで『東亜新植物総覧』(1866~93)を書いた。作物起源論で有名なN・I・バビロフ(Vavilov)の収集植物はここにはなく、同じザンクト・ペテルスブルグにある植物工学総合研究所に納められている。

古き形を残す南欧の植物園

本書の第二話に、中世の薬草園の原形を留めるパドバ植物園について述べたが、南欧のスペインとポルトガルには、泉を中心に潅木の囲いのある小形の花壇が多く作られた古いスタイルの植物園が各地に見られる。

たとえば、マドリッドの王立植物園(Jardin Botánico Real)もその一つで、ここでは大形の泉を中心として、方形の花壇が多く配置されている。リスボンの植物園(Jardim Botánico, Faculdade de Ciencias)でも、標本庫や温室に隣接した分類地理園はこの形式を残している。ここには、ほかに東洋の竹類や、アフリカなどのヤシ類を配した回路式の樹木園があり、その近くに、アソーレス産の巨大なドラセナ・ドラコ(竜血樹)の茂みが健在である。

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