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第二十二話 アジアの植物園

熱帯植物の美しいペラデニヤ植物園

「アジアで最も美しい植物園はどこか」と問われたら、私は「スリランカのペラデニヤ植物園」と答える。

この植物園は、スリランカ政府の農業省に属し、正式には「スリランカ国立植物園」とよばれるべきだが、今でもイギリス統治時代の「王立植物園」の名でよばれる。首都コロンボから車で2、3時間、仏歯寺のあるコージーな町として有名な、カンディーの4キロほど手前のペラデニヤという町にある。標高800メートル、川の湾曲部に位置し、敷地は、70.4ヘクタールと決して大きくはないが、保有する植物の数と多様性の点で、アジアの他の植物園を大きく引き離している。

正門を入ると、うっそうと茂った並木道が奥へ通じている。その手前右側にスパイス・ガーデンがあって、アジア産のコショウ、ニッケイ、ニクズクなどのほかに、熱帯アメリカ産のオールスパイスなどもよく育っている。これを囲んで、ビルマ産の花木アムヘルスティアが乾期に特徴のある美しい花をつけ、ゴクラクチョウカの仲間も多い。スパイス・ガーデンに続いて、ラン室と花卉類の花壇がある。ラン室は温室ではなく、常緑樹の日陰に立てられている。ここの花壇と熱帯庭園は、これまでに私が見たもののなかでは、最も美しい事例のひとつである。

園内に登録されている植物は5,000種ほど、ヤシ類、タケ類、木本類が多い。ヤシ類では、果実が黄金色になるキングココナツという品種も含めて、ココヤシの系統保存に優れている。ほかにフタゴヤシ、アブラヤシなどのアジア以外のヤシもよく集められていて、とくにキャベツヤシの並木は本当に素晴らしい。タケ類は、川に沿って薮になっていて、密生するマチク類の立派なコレクションもある。

樹木園の部分には、シタン、マホガニーなどの熱帯の貴重樹や、珍しいマメ科植物、フタバガキ科植物、キワタ科の樹木などが、アジア以外の熱帯からも集められていて興味深い。

こういう森林部や花木・花壇などの植え込みを出ると、中央部の大きな芝生(モール)が開ける。植物が密生した所からモールに出て、急に視界が開け、開放感を感じる。このモールの片隅に、世界一大きい傘形のフィカス・ベンジャミナがあって、人々が樹陰で涼む。そのモールの反対側にあるコーヒーショップでは、美味なスリランカ・カレーと香りの高い紅茶(セイロン・ティー)が楽しめる。

古めかしい管理・研究棟の中の腊葉庫には、スリランカを中心とする植物をカバーし、二25万点ほどの標本があり、1850年代にここに集積された古い原標本が貴重である。植物学の父C・リンネ(1707~1778)の時代に「東インドから」として発表された植物の大多数は、スリランカ産であった。

1969年に、私はこの植物園へ派遣され、スミソニアン研究所の「スリランカ植物誌計画」を発足させ、その植物誌の一部を研究・執筆した。当時、この計画で私の助手として働いた数名のフレッシュマンたちのなかで、D・B・スミトラアラッチ(Sumithraarachchi)君は、現在ペラデニヤ植物園の園長になったし、A・H・M・ジャヤスリヤ(Jayasuriya)君はニューヨーク市立大学で私の大学院生として学位を取り、帰国して植物園の標本館主任を経て 現在スリランカ農業省の遺伝資源センター所長になっている。

 スリランカには、このほかに、平地のガンパハ植物園と標高2,000メートルの山地のハクガラ植物園がある。ガンパハ植物園には、1876年にウィツカムの種子から発芽した、ゴム導入時代の歴史的なパラゴムの巨木が今なお健在であり、他方、ガンパハ植物園では、高所の涼しい気候と雲霧林的な湿度によって、中国南部からヒマラヤ山地の珍しい裸子植物類、シャクナゲ類、世界一の木生シダのコレクションと起源の古い花卉類が多い。

有用植物が多いボゴール植物園

インドネシアのボゴール植物園(正式にはインドネシア国立植物園 Kebun Raya Indonesiaという)は、ペラデニヤ植物園と同じく1817年にオランダ政府が設立した歴史の古い植物園である。首都のジャカルタから車で1時間半ぐらい南にあり、付近には国立標本館、農科大学、国立生物学研究所その他の植物研究機関も集まっている。

敷地は106万平方メートルと広く、一万種以上の植物がある園内は、美しいというより、むしろ学術的であるという点で、ペラデニヤ植物園と対照的である。東南アジア地域のヤシ類、タコノキ類、熱帯樹木、バナナ類など、アジアの有用植物のコレクションが抜群である。ただし、ペラデニヤ植物園よりも、熱帯アメリカや熱帯アフリカの植物は少ない。インドネシアの野生ランを中心とする二千五百余種のランの遺伝子プールがあるが、これは一般には非公開である。

第2次大戦中、ボゴール植物園は日本の管理下にあって、当時の園長は、東京帝国大学教授中井猛之進博士であった。初島住彦、大井次三郎両博士も、当時この植物園やボゴール腊葉館のスタッフであった。この植物園と付属のボゴール腊葉館は、インドネシアを中心とする160万点の標本を所蔵し、戦後、オランダのライデン植物園と協力して、『マレーシア植物誌』(註)の編纂を始めた。

(註)マレーシアというと、普通はマレー半島にあるマレーシア共和国(Malaysia)の事であるが、植物地理学上のマレーシアはMalesiaと書き、マレー半島からインドネシア全土、さらにフィリピンも含む、マレーシア植物区系の意味である。

さらに発展するシンガポール植物園

ランやヤシ類のコレクションに優れたシンガポール植物園(Singapore Botanic Garden)も、1875年に英国の植民地植物園として発足した。

クルニー道路の角の植物園正門の黒い鉄門は、大英帝国を象徴する。この門を入った右側の低いスロープには、その奥にある管理研究棟までの間に、熱帯の有用植物や南米の美しいブラウネアも含む花木類が豊富に集められている。元園長の一人は、有名な有用植物学者のH・M・バーキル(Burkill)博士で、『マレー半島資源植物事典』を著わしている。

研究棟からラン園に向かう道路の両側に、ショウジョウヤシが植えられていて、植物園の紋章になっている。ラン園の手前にこんもり茂った熱帯雨林の保存区があり、細い歩道があって中に入れる。ここにはコブラも生息するというが、私は見た事がない。

新しいラン園は、廻遊式庭園の深い緑の木立や林の下植生や着生植物として多くの種類のランを植え、花壇として多数のランを密植した贅沢な大形ラン庭園である。今までのラン園とかランの陳列園というアイディアを一変した新機軸で、造園学の稲田純一氏の発想と制作によるものである。

ここも太平洋戦争中は日本の管理下にあって、「昭南植物園」と呼ばれた。当時、郡場寛京都帝国大学教授が園長を勤めた。同教授は、日本軍のシンガポール植物園接収直後、捕虜になった英国人の植物学者を速やかに植物園に復帰させ、研究生活の継続の便宜を図った事で知られる。この植物学者のなかに、有名な熱帯植物学者のE・H・コーナー(Corner)博士もいた。

シンガポール植物園は、前述の新しいラン庭園に加えて、大形の水生植物生態園が完成、薬用植物園の造園、植物標本館の増改築など、急速に拡大増設計画が進められている。英国が残した遺産を発展させて、植物研究、園芸研究、都市公園の機能まで備えた文字通りのアジア第一の綜合植物園作りのゴール達成はほど遠くない。

ヨーロッパの植民地政策に始まる

伝統的なアジアの植物園は、ヨーロッパの植民地政策によって建設されたものである。アジアの植物資源調査と開発、さらに熱帯アメリカなどから導入された植物の育成保存を目的として、産業化のための基地の役割を果たした。

たとえば、アマゾン河地域に生えるパラゴムノキは、まずキュー植物園に運ばれ、スリランカのガンパハ植物園等で増殖されてから、マレー半島に導入された。ペラデニヤ植物園ではキナノキやチャ、ボゴール植物園ではコーヒーノキ、カカオノキ、スパイス類などの付加価値の高い有用植物が導入・増殖された(第二話参照)。

インド人独自のモチベーションによるインド国立植物研究所

インドのデリーとカルカッタのほぼ中間に、ラックナウ・マンゴーで知られるラックナウ市があり、ここに、有用植物の研究を目玉にした有用植物園、インド国立植物研究所(NBRI―National Botanical Research Institute)がある。

1948年、K・N・カウル(Kaul)博士が、インド科学技術研究会議の直轄植物園としてインド国立植物園を設立、その後、細胞遺伝学者で有用植物学者でもあるT・N・コショー(Koshoo)博士が園長のときにインド国立植物研究所と改名、有用植物研究部門を急速に拡張整備した。

敷地面積30万平方メートルと特に大きいとは云えないが、精油、香料、果樹、繊維、薬用などの有用植物のほか、カンナなどの花卉類も含めた、優秀な遺伝子プールがある。各国で出版された有用植物関係の文献目録も出版している。

1971年に私が始めてここを訪問したとき見せられた実験に、ヤマノイモ属の植物の根を10ミリほどの長さに切断し、これから茎や葉を再生させるという、現在の組織培養の先駆ともいうべき実験を行っていた。

このラックナウの国立植物研究所は、カルカッタの国立植物園やデヘラドゥンの国立樹木園などアジアの大型植物園の大半が植民地時代の宗師国によって設立されているのに対して、ここは第二次大戦後インド独立直後にインド人の手で建設された。中国の北京植物園、西双版納熱帯植物研究所、タイ国のクイーン・シリキット植物園等とともに、アジア独自の植物園の例として、注目に値する植物園である。

植生に対応する中国の植物園

現在、アジアで植物園造りに最も力を入れている国は、おそらく中国であろう。北は哈爾浜から、南は海南島、西は貴州の北300キロの民勤にかけて70にも及ぶ植物園があり、一つ一つの植物園が、その地方の気候風土を生かした際立った特徴をもっている。

哈爾浜植物園は、1958年に開設され、敷地が1,400万平方メートルある。シラカンバ類、ヤナギ類、エゾマツ、トウヒ類などの北方樹種が多く、冷帯や亜寒帯の林床植物の研究も行っている。

民勤植物園は、年平均雨量110ミリ、最高最低気温が37℃とマイナス26℃という厳しい環境にあり、グミ類、アカザ類の小低木、マオウなど、半乾燥地植物を研究している。

中国の温帯地方にも立派な植物園が数ヵ所ある。まず、首都の北京であるが、ここには立派な植物園が二つある。その一つは、中国科学院の管轄下にある北京植物園の南園で、北京市から約18キロメートルの香山にあり、面積は56万平方メートル。1955年の開園で歴史は新しいが、集められた5,000種余りのなかには、絶滅危惧種を始めとして、コトネアスタ、スグリ類、リンゴ属、ライラック、北方系の裸子植物などが豊富で、ボタンやシャクヤクの大きなコレクションもある。園芸植物園の丘には早春にレンギョウが開花して春を告げ、喜ばしい。この植物園は研究を重視し、中国科学院植物研究所の標木館もここに移設され、現在170万点の標本があり、陳心啓教授を中心に『中国植物誌』の著作を精力的に進めている。二つ目の北京植物園の北園は、前述の南園の東北に位置し、面積157万平方メートルと大きい。竹類園はとくに素晴らしく、桜、桃、宿根花卉類などのコレクションがある。ここは北京市の公園局に属している。以上のほかに、北京の薬用植物園があり、漢方の薬用植物約1,300種ほどが揃󠄀っている。

次に、温帯の植物園のなかで最大級の一つに、江西省の廬山植物園があり、280万平方メートルの敷地面積がある。1934年に、景色のよい廬山の谷に開設され、江西省科学委員会に属する。園内には、自然植生が33万平方メートルも保存されている。3,400種余りの植物の中には、アヤメ類、ツツジ・シャクナゲ類、モクレン類、それに中国固有種の多い裸子植物が、非常によくそろっている。

杭州植物園は、景勝の地、西湖のほとりにあり、1956年に開かれた。251万平方メートルの敷地には、バラ、モクレン、カエデ、クマシデ類が多く、造園植物の導入に力を入れている。花卉・花木の研究や盆景・盆栽、造園などは、上海植物園でも盛んで、ここでは、ツツジやモミジ類が多く集められている。

植物標本60万点をもつ南京植物園は、1929年に、中国の父といわれる孫逸山を記念して開設され、1954年に江蘇省科学委員会により再建され、現園長は賀善安博士である。3,100種ほどの生植物のコレクションの中には、日本の植物と関連性の深いグループが多く、非常に参考になる。クリ類、カエデ科、モチノキ類、ユリノキ属、モクセイ属、温帯の裸子植物のほかに、中国の国花の梅の品種、ツツジ属の豊富な遺伝子資源に加えて、シュウカイドウ科、キイチゴ類、ハス属とか中国中部の絶滅危惧種を集めて、生育地外での保存にも努めている。第二次大戦前からハーバード大学やニューヨーク植物園と共同して、中国の植物の研究が盛んであった。

中国南部にはいくつかの熱帯植物園があるが、なかでも、雲南省の西双版納熱帯植物園が、機能、施設、立地のすべてにおいて最高である。中国科学院昆明植物研究所に所属するこの植物園は、1959年に設置され、タイ国へ注ぐメコン川の上流の熱帯雨林地帯に、川を含める900万平方メートルの広大な敷地には、3,000種の栽培植物に加えて原生林が多い。雲南省は、植物相が豊富なことではアジアで一番であろうが、それを反映して、熱帯裸子植物、ヤシ、ラン、ショウガ、アカネ、ウリ類のコレクションは素晴らしい。

ほかに、油料植物、熱帯果樹、速生長薪炭材植物、水生植物に力を入れ、他の熱帯地方からこの目的の植物類の導入も行っている。パラゴムノキの林床でショウガやウコンやチャを育てるという、アグロフォレストリー式の人工植生の研究など、活動は多方面にわたっている。

昆明植物園は、敷地は43万平方メートルと小さいが、集められた4,000種の中では、黄色のツバキを含めて、ツバキやチャの仲間、マンサク科、シャクナゲ類、ラン類、ユリ類などのコレクションが貴重である。ここの80万点の標本は、北京の植物研究所にある75万点の標本とともに、中国植物誌研究の二大データバンクのひとつといえる。

南部にはほかに、広州植物園のヤシ類や東洋ラン類、海南島熱帯有用植物園の果樹やサガリバナ類、ラワン類など、興味深い植物を集めた植物園がある。

台湾は亜熱帯南部に位置し、雨量が多く、山が高い(最高峰の玉山は海抜3,950メートル)ため、珍しい植物が多く、植物園にもそれなりに貴重な植物が見られる。林業試験所の管轄下に四つの植物園がある。台北植物園では面積8万平方メートルの敷地内に、1,600種ほどの植物が大まかに分類されて植えられている。裸子植物、クスノキ科、モクレン科、バンレイシ科のほかに優秀な竹類のコレクションがある。

台湾のその他の植物園には、南部の恒春熱帯植物園、墾丁公園があり、有用植物類が多い。1991年に、台北県と宜蘭県にまたがって作られた福山植物園は、10万平方メートルの面積で、自然植生・天然林を多く保護している生態保護区の印象が強い。

植物園に意欲的なタイ国

タイ国は近時、植物園の建設に非常に積極的で、1970年代、私がニューヨーク植物園のアジア部長の頃に、タイ王立林務局の標本館長兼植物園總務長であったC・ペンクライ(Phengklai)氏ほかの担当官を、ニューヨーク植物園に留学、研修させている。開発によって、重要な植生が壊れる前に、国の各地に十五ヶ所以上の土地を植物園用地として先ず確保するのだ、と云う。土地さえ確保しておけば、園の建設は後でフォロー・アップができるというアイディアである。

しかし、その当時でも、サラブリの近くのムアックレック樹木園では、樹木や竹の苗を大量に増殖して、人々に無料で配布し、国土の緑化に貢献したり、半島部のトラン近くのカオチォン熱帯林植物園とか、フタバガキ科中心のタイ中部のプカエ植物園、タイ西部のプッタモントン植物園、東部のカオヒンソン植物園と、北部のチェンマイ近くのマエサ植物園などが、開発中の植物園として機能していた。

1992年にタイ国政府は、この中の北部のマエサ植物園を農業省林務局に加えて、科学技術庁と總理府も参加して、大形の国立植物園として、植物園の立地条件と植物の豊富さに恵まれた隣接のドイプイスーテップ国立公園の一部を併合する960ヘクタールの大形植物園に拡大し、クイーン・シリキット植物園(Queen Sirikit Botanic Garden)として再発足した。現園長には、私のかつての大学院生であったW・ナナコーン(Nanakorn)博士が任命されている。

ここでは、照葉樹林帯の南端からタイ特有のサバンナ林への移行帯の生態系を保存し、加えて、美しい花壇、数多のデンドロビュームを含むランのコレクション、熱帯花木園、竹林、サトイモ科園などがよく整備されている。ほかに腊葉庫もあり、カセサート大学、チェンマイ大学との連携による研究教育活動も活発である。前述の数個の開発中植物園も、おいおいこのように整備されて行くことになる。

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