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第二十三話 北アメリカの植物園

相互に協力し植物学研究を支える

北アメリカには、約106の植物園があり、旧ソ連の92を上回っている。特記すべきことは、これら106の植物園の大部分が、私立の植物園で、それらが植物分類学や園芸学の支柱の役割を果たしている、ということである。

アメリカの植物学研究の中心となっている植物園としては、ニューヨーク植物園やセントルイス市にあるミズーリ植物園のような巨大な植物園、ロサンゼルス市の南にあるランチョ・サンタアナ植物園、ボストン市郊外のハーバード大学付属アーノルド樹木園、マイアミ市にあるフェアチャイルド熱帯植物園のような大型から中型の植物園を、その代表として挙げることができる。これらの植物園は、強力な研究機関をもっていて、相互に緊密な協力調整関係にあり、世界におけるアメリカの植物学という広い視点に立って、研究分野の重複を避けた運営をしている。

たとえば、ニューヨーク植物園は、その植物データバンクの特性から、西インド諸島、ベネズエラ、ブラジルを中心とする熱帯アメリカと、東南アジア地域の植物研究に重点をおいている。一方、ミズーリ植物園は、中米と、南米西部のアンデス地域、熱帯アメリカ、南アフリカの植物研究に主力を注ぎ、両植物園はお互いに補完的関係となり、助け合っている。

ミズーリ植物園(Missouri Botanical Garden)のクライマトロンは、第三話で紹介したが、ここは、1859年にセントルイスの実業家H・ショー(Shaw)を中心とする民間人によって設立され、当時はショーズガーデン(Shaw's Garden)と呼ばれていた。26万3,000平方メートルの敷地はよく手入れされ、19棟の展示温室と6棟の増殖研究温室には、南アメリカやアフリカ産を中心とするランなど、熱帯植物が豊富である。

植物データバンクとしては、250万点の標本があり、現在、アメリカの植物研究所のなかでは最も活発に野外植物探索を行っているので、標本の増加率も最大である。『中央アメリカ植物誌』を編纂し、一時は、熱帯アフリカ植物学協会の事務局があり、国際シンポジウムも数多く主催している。最近、日本の企業の協力で、大阪の万国博記念公園の日本庭園を思わせる大形の日本庭園が誕生した。

園長は、アメリカの植物学界のリーダー格であるP・レーベン(Raven)博士で、かなり以前から、地球の緑の環境の危機をアメリカ政府に訴え続け、アメリカ植物学界からの支持を得ている人である。

東アジアの樹木のデータバンク

ニューヨーク植物園とミズーリ植物園が主として熱帯圏をカバーしているのに対し、ハーバード大学付属アーノルド樹木園は、伝統的に、中国から日本を中心とする東アジアの温帯植物の研究で世界をリードしてきた。

アーノルド樹木園(Arnold Arboretum)は、107万2,400平方メートルの敷地があり、東アジア中心に約6,000種の樹木を栽培保存している。カシ属、ライラック類、カリン属、リンゴ属、ツツジ科、スイカズラ科、レンギョウ属などが多い。アジア植物の巨大なデータバンクがあり、ハーバード大学のグレー標本庫も含めて、約450万点の標本がある。

歴代園長は、C・P・サージェント(Sargent)、E・H・ウィルソン(Wilson)、A・レーダー(Rehder)、E・D・メリル(Merrill)と、優れた有名な植物学者が務めた。メリル教授は、E・H・ウォーカー(Walker)博士とともに『東亜植物文献目録』を著した。

ワシントンにある米国国立樹木園(U. S. National Arboretum)も、日本や中国などの東アジアの植物を多く集めている。1927年に設置されたこの国立の植物園は、米国農業省に所属し、その180万平方メートルの敷地内には、7万系統のツツジを始めとして、ツバキ、モクレン、アメリカハナミズキ属、カエデ属などの大きなコレクションのほかに、バラ園、日本、中国、韓国の植物を集めたアジア園、米国東部の植物中心の北アメリカの園もある。樹木園とは云うが、米国東部で野外に育つ草本類も勿論あり、ハーブガーデン、薬草園、アメリカン・インディアン・ガーデン、スイセン属のコレクションなど豊富に存在する。年々探索隊を出して、日本や東アジアのサクラ類を熱心に集めた。

本篇第十六話で一寸触れたように、1983年には日米修好二百年の記念として日本の政府と盆栽協会から贈られた53鉢の盆栽を中心に、盆栽ガーデンと、それに続く小形で渋味のある日本庭園が造られた。

日本では余り知られていないが、米国の西海岸にはワシントン州のシアトル市に、ワシントン・パーク樹木園(Washington Park Arboretum)がある。ワシントン大学のキャンパスに程近い、面積81万平方メートルの細長い敷地内に4万本の樹木や蔓植物と、その下植生としての草本類や湿地植物も植え込み、北米で最も優れた樹木園の一つであり、中国や日本の植物を含む東アジアの温帯植物の集大成として極めて価値の高い生植物のコレクションを編成している。又、植物の管理がよく行き届き、名札の整備も非常に良い。

米国の西北部の太平洋岸は、多少地中海性の気候で、冬は雨量が多く余り凍結せず、夏は乾燥気味だが気温はそれ程高くならない。ここは極東の植物がよく育ち、園内には北米一を誇る東亜のカエデ類、次いで米国第二位と言われるモミ属等の温帯性裸子植物、モクレン科、ツツジ属等が伸び伸びと育っている。初夏五月にはモクレン類、ツツジ類に加えて、エゴノキ科、ナナカマド類、それに下植生の草本類が 一斉に開花し、カラフルなカエデ属の新葉と相和して園内はまさに園芸植物園のような美しさになる。ここに集められた植物はその大部分が野生種であるから、種数が非常に多く、植物誌や植物分類学の貴重な研究材料を提供している。

樹木園の南の端に日本庭園があり、三月から十一月まで開園している。流石に日系人の多い土地柄、この庭園はオーセンティックな徘徊型日本庭園で、庭の編成、植物の選択等総ての点で立派であり、美しい。

1934年設立のこの樹木園は土地建物等はワシントン州に所属する公立であるが、樹木園自体は第三セクター式の法人として運営され、管理はワシントン大学が当たるという興味ある運営方式で、大変参考になる。

世界に誇るロングウッド・ガーデン

絢爛たる花の殿堂、とでも表現すべきロングウッド・ガーデン(Longwood Gardens)は、フィラデルフィア市の南西約30キロのケンネット・スクエアという町にある。

花と建造物がよく調和したこの園芸植物園は、16棟の展示温室、16棟の増殖研究温室のほかに、大きな中世風デザインの舞踏室(会議室にも使用)まで備えている。総面積は、405万平方メートル。所蔵する生きた園芸植物は、種と品種を合わせて1万4,000種におよび、一年生草花、ラン、球根類、アカシア、ツツジ、熱帯植物、キク、ツバキ類などが多い。

主展示温室の内部には、ギリシャ・ローマ調の柱があり、春のイースター・ショー、夏の草花展、秋のアメリカ式菊展、冬のクリスマス・ショーが恒例の催しで、遠くから観光バスで見物に訪れる人も多い。この温室の建物は、温室と云うよりもむしろ非常に大きなアトリウム式の構造である。鉄骨とガラス構造の屋根の下では、大型の庭園そのものの展示が出来るが、側面がビルディングのそれの形となっていて、窓とか戸口が作ってあり、その内側に歩道風の道が通じている。すなわち、この道を歩けば、片側は都市のビルの前の感じで、その反対側は庭園展示の公園の雰囲気を味わうという趣向になっている。独特な設計で大変興味深い。ほかに、ツツジ室、シダ室、熱帯植物棟、ラン室などの温室がある。屋外では、緑の樹木園を背景にしたイタリア式噴水ガーデンが素晴らしく、フランス式庭園とバラ園も実に見事である。

ロングウッド・ガーデンは、フランス革命のときにアメリカに移住し、デュポン化学の社長となり、ゼネラル・モーターズも経営した実業家のピエール・デュポン(Dupon)氏が、1906年、ケンネット・スクエアにあった樹木園とその周囲の林を買収して造ったものである。デュポン氏の意図は、緑の林を残すためと、フランスの園芸文化をそこに再現するためだった、といわれる。1916年に温室の大部分が建ち、1933年にはイタリア式の大噴水が完成して、八分通り現在の形になった。

この植物園は、単に華麗で大規模な植物園ということにとどまらず、世界的な園芸学校であり、花卉の育種研究所である。米国農業省と提携して、主として花卉・花木類を目的とした植物の探索収集を行い、デラウェア州立大学と協力して園芸学の大学院教育も行っている。現在は、デュポン家やデュポン系企業の寄付によるロングウッド財団が、この植物園を経営している。

ほかに、アメリカの園芸植物園を1、2挙げると、まず、ロサンゼルス市に近いサン・マリノにハンチントン(Huntington)植物園がある。ハンチントン家の一部に造られた私立の植物園で、84万平方メートルの敷地に、アメリカ大陸産のサボテンと多肉植物が2万5,000点植えられたサボテン園、ソテツ類やヤシ類のコレクション、果樹園、有用植物園、1,200品種をもつツバキ園、中日折衷の日本庭園などがある。

また、ランを中心とした園芸植物園に、ハワイのホノルル市のフォスター(Foster)植物園がある。敷地が6.9万平方メートルと小型の植物園で、ラン、アンスリウム、ホウライショウなどのサトイモ科植物や、熱帯であるからもちろん多くのヤシ類、またソーセージ・トゥリー、キャノンボール・トゥリーといった、熱帯特有の形態の面白い樹木などが植え込まれている。

地域性を生かして個性を出す

ランチョ・サンタアナ(Rancho Santa Ana)植物園は、クリアモント植物系大学院としての伝統があり、多くの卒業生を送り出している。32万4,000平方メートルの園内に、1,500種の植物を植え、アヤメ属、マメ科を中心に、カリフォルニアを中心とする北米西南部の特異な植物がよく集まっている。元園長のP・A・マンズ(Munz)博士は、『カリフォルニア植物誌』(1938、補遺1960年)を著した。

フェアチャイルド(Fairchild)熱帯植物園には、34万4,000平方メートルの敷地があり、フロリダ州のマイアミという地域性を反映して、ヤシ類とソテツ類を中心に集め、熱帯ランも非常に多い。P・B・トムリンソン(Tomlinson)博士は、ここでヤシ類の解剖分類学を研究した、この分野の第一人者であり、D・コレル(Correll)博士夫妻はここでアメリカ東南部の『水生沼生植物誌』を書いた。

アリゾナ州のテンプには、アリゾナ砂漠植物園がある。61万平方メートルの園内には、3,400種ほどのサボテンとトウダイグサ科、リュウゼンラン科などの多肉植物がよく集められている。

ハワイには熱帯樹林を保存

1964年に、21世紀へ向けての植物の重要性を反映して、新しい大型の私立研究植物園がハワイに誕生した。カウアイ島のラワイにあるパシフィック熱帯植物園(Pacific Tropical Botanical Garden)である。75万3,000平方メートルの本園と404万7,000平方メートルのリマフリ谷実験保存林、48万6,000平方メートルのカハユ分園からなる。

ここは、以前から、太平洋地域の熱帯植物研究機関を設置しようとする動きが民間にあり、ついに米国議会がこの意を汲んで、議会の側面接助による第三セクターの植物園として発足した。

ヤシやタコノキの多いハワイ特有の熱帯林をそのまま利用し、その中に、研究室や実験林、宿舎などが散在して、楽しい研究の場となっている。ハワイ諸島やフィジー諸島の植物誌を編纂し、民族植物学、食用植物学、薬用植物学の研究を行い、ココヤシ、バナナ、パンノキ、その他の熱帯果実や、タロイモ、ショウガ類などの遺伝子資源の収集保存も行っている。

日本でも、恵まれた自然の残っている沖縄の西表島に、この種の研究植物園をつくり、熱帯アジアの植物遺伝子資源の保存と開発利用をと願うのは、筆者だけではないであろう。

石灰採掘跡のブッチャート・ガーデン

カナダには、西海岸から東海岸にかけて、約10の植物園があるが、その主なものは、ビクトリア市のブッチャート・ガーデン(Butchart Garden)、バンクーバー市のブリティッシュ・コロンビア大学付属植物園、トロント市近くのハミルトン市にあるロイヤル・ボタニカル・ガーデン、首都オタワ市の農業省付属樹木園と植物園、それに(市立)モントリオール植物園というところである。

このなかで、大型植物園のモントリオール植物園とロイヤル・ボタニカル・ガーデンは、それぞれ1936年、1941年と設立の歴史は新しいが、よく整備されている。

モントリオール植物園(Jardin Botanique de Montréal)は、ベゴニア、アンスリウム、ラン、イワタバコ類などの熱帯植物を中心にしたコレクションが充実しており、ロイヤル・ボタニカル・ガーデンは、チューリップ、アイリス、草花類に重点をおいた優秀なコレクションをもっている。

オタワ市の農業省付属樹木園および植物園は、1886年に開設されたカナダ最大の植物園である。市の中心部にある農業省中央実験農場に接した26万平方メートルの敷地に、ライラック、ハナカイドウ、裸子植物、ユリ類の優れたコレクションがあり、植物園というよりも、農事試験場といった観がある。

ブリティッシュ・コロンビア大学付属植物園は、カナダ西海岸の植物を中心に集め、ほかにバラ、シャクナゲにも力を入れ、1960年ごろに日本庭園も造られた。

ビクトリア市のブッチャート・ガーデンは、美しい園芸植物園のひとつである。セメント会社を経営していたブッチャート社長とその夫人が、石灰岩採掘のために破壊してしまった緑を復興するために造り、見事に意を達した。サンクン・ガーデン(Sunken Garden)という植物園の中心部が採石のために掘り下げられた凹地で、そこは今は目を見はるばかりの花園となり、特に五月頃が見頃である。それを含めて、14万平方メートルの植物園として整備し、カエデの林や美しい花壇を造り、観賞を目的とする代表的な草花や樹木を集めている。

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